大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和61年(ネ)58号 判決 1987年3月23日

控訴人 陰山哲夫

右訴訟代理人弁護士 八十島幹二

同 吉川嘉和

同 吉村悟

被控訴人 木村一

右訴訟代理人弁護士 玄津辰弥

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

1. 控訴人

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

2. 被控訴人

主文と同旨

二、被控訴人の請求原因

1. 柳田勉は、昭和五九年一一月一二日株式会社福井相互銀行との間で、手形割引を含む相互銀行取引約定を締結した。

右約定において、柳田勉は自己が支払を停止したときは、割引を受けた全部の手形につき当然手形面記載の金額の買戻債務を負い、直ちに弁済する旨を約した。

2. 控訴人、被控訴人及び柳田勉の妻である柳田美恵子の三名は、右同日それぞれ同銀行に対し、柳田勉が前項記載の取引に関して同銀行に対して負担する債務につき連帯保証する旨を約した。

3. 柳田勉は、同銀行から岩元忍振出の次の約束手形二通(以下「本件各手形」又は「本件(一)(二)の手形」という)の割引を受けたが、昭和五九年一二月六日頃には事業に失敗して無資力となった。

(一)金額 一二八万円

支払期日 昭和六〇年二月五日

支払地 福井市

支払場所 福井信用金庫二の宮支店

振出地 福井市

振出日 昭和五九年一一月五日

振出人 岩元忍

受取人 柳田勉

(二)金額 九八万三〇〇〇円

支払期日 昭和六〇年三月一〇日

その余の手形要件は(一)の手形と同じ

4. その後間もなく、岩元忍は被控訴人に対し、自己には本件各手形の決済能力もないうえ、これらはそもそも融通手形であるから、その決済を拒絶する旨を通告した。

福井相互銀行は、本件各手形の支払期日に被控訴人からその決済資金の準備完了を告げられながら受領せず、柳田勉の支払停止により既に発生していた本件各手形金の買戻債務につき、その保証債務を履行させる意思において、被控訴人に対し、本件各手形決済資金を福井信用金庫二の宮支店の岩元忍の当座預金口座に直接振込入金するように指示した。

そこで、被控訴人は、右岩元の当座預金残高が右各手形を決済するには不足しており、かつ、各支払期日においても他より決済資金が入金されないことをも確認したうえで、昭和六〇年二月五日本件(一)の手形決済資金一二八万円、同年三月一一日本件(二)の手形決済資金九八万三〇〇〇円を右岩元の当座預金口座に振込んで入金し、いずれもその頃右各手形を決済した。

よって、被控訴人の右各手形決済資金合計二二六万三〇〇〇円の出捐は、柳田勉の債権者である福井相互銀行に対して直接なされてはいないが、柳田勉の連帯保証人として同人に代わってなされた弁済というべきであり、被控訴人は、控訴人及び柳田美恵子に対して求償権を取得した。

5. しかるに、柳田美恵子は柳田勉と共に所在不明で無資力であるため、被控訴人に対して全く償還できない。

6. よって、被控訴人は控訴人に対し、前記求償権に基づき、右弁済金の半額である一一三万一五〇〇円、及びこれに対する前記最終弁済日である昭和六〇年三月一一日から完済まで民法所定年五分の割合による利息金の支払を求める。

三、請求原因に対する控訴人の認否及び反論

1. 請求原因1項前段の事実は認めるが、後段の事実は知らない。

2. 同2、3項の事実は認める。

3. 同4項について

(一)  一段目ないし三段目の事実は不知、四段目の主張は争う。

(二)  本件各手形はいずれもその支払期日に振出人によって決済されているのであるから、柳田勉の福井相互銀行に対する右各手形についての債務は発生しておらず、従って連帯保証人の債務も発生していない。

(三)  仮に被控訴人が岩元忍に対して本件各手形決済資金を提供したとしても、同銀行に対する連帯保証人の債務は本件各手形が不渡に帰してはじめて発生するのであり、本件においてはいまだに発生していないこと、消滅した債務は岩元忍の本件各手形債務であり、柳田勉の同銀行に対する債務でないから、求償権発生要件である免責行為にはあたらない。

(四)  仮に柳田勉の同銀行に対する本件各手形金の買戻債務が昭和五九年一二月六日頃に発生したとしても、被控訴人はその保証債務を履行するには同銀行から本件各手形を買戻せば足りる。それを、本件各手形の振出人に金員を交付し同人をして手形を決済せしめたからといって、主たる債務の弁済その他免責のためにする出捐にあたらない。その点について、同銀行の従業員中に、被控訴人から同銀行への弁済を拒み、振出人への金員の交付を指示したものがあったとしても、それは、被控訴人の同銀行に対する損害賠償請求との関係で意味をもつことは格別、前記結論には何の消長もきたさない。

4. 同5項の事実は知らない。

四、証拠関係〈省略〉

理由

一、請求原因1項前段、2項、3項の事実は当事者間に争いがなく、原本の存在・成立に争いのない甲第一五号証によると、請求原因1項後段の事実が認められる。

二、〈証拠〉によると、次の各事実が認められる。

1. 水道設備業を営んでいた柳田勉は、昭和五九年一一月一二日岩元忍振出に係る本件各手形を福井相互銀行堀の宮支店で割引を受けたが、同月末頃第一回目の不渡手形を出し、その後第二回目の不渡手形を出して倒産し、同年一二月六日頃勉同様無資力の妻柳田美恵子と共に所在不明となった。

2. ところで、柳田勉は福井相互銀行に対して、自己が支払の停止をしたときは、割引を受けた全部の手形につき当然手形面記載の金額の買戻債務を負い、直ちに弁済する旨を約していたので、同銀行堀の宮支店長の横井哲朗は、同年一二月初め頃柳田勉の連帯保証人である被控訴人に対し、柳田勉が支払を停止したので、買戻債務を履行するようにと申し入れた。

3. そこで、被控訴人が本件各手形の振出人である岩元忍に対してその弁済方を要請したところ、岩元忍は被控訴人に対し、本件各手形はいずれも融通手形であるうえ自分にはその決済能力もないとして、その決済方を拒絶した。

4. そのため被控訴人は、本件(一)の手形の支払期日である昭和六〇年二月五日横井支店長に対し、電話で右手形が不渡りとなるかもしれないと言って相談したところ、横井支店長は被控訴人に対し、「本件(一)の手形が不渡りとなれば、被控訴人は柳田勉の連帯保証人であるためその信用を失墜し、従前からの当行と被控訴人との相互銀行取引にまで支障を及ぼすうえ、被控訴人はいずれにせよ柳田勉の連帯保証人として右手形金を当行に支払わなければならないのだから、同じ出捐をするのであれば、被控訴人の方で、右手形決済資金を福井信用金庫二の宮支店の岩元忍の当座預金口座に直接振込入金をし、右手形を不渡りにしないで決済した方がよい。そうすれば、被控訴人の当行に対する保証人としての責任も果たしたことになる。」旨指示説明をした。そこで、被控訴人は同日、右岩元の当座預金口座には残高が僅か二四二二円しかなく、本件(一)の手形を決済することが不可能であり、他より決済資金が入金されないことをも確認したうえで、右手形決済資金一二八万円を右当座預金口座に振込入金した後、横井支店長に対し、一二八万円を右口座に入金して右手形を決済した旨電話で連絡した。

5. 被控訴人は、本件(二)の手形の支払期日である同年三月一〇日の二、三日前にも横井支店長に前同様の相談をし、同支店長から前同様の指示説明を受けたので、右支払期日に、右岩元の当座預金口座の残高が二四二二円しかなく本件(二)の手形の決済が不可能であり、他より決済資金が入金されないことをも確認したうえで、翌同月一一日右手形決済資金九八万三〇〇〇円を右当座預金口座に振込入金した後、横井支店長に対し前同様の連絡をした。

6. 被控訴人は、柳田勉の連帯保証人である控訴人にも責任を分担してもらおうと思い、同年四、五月頃横井支店長の協力も得て同支店長と共に控訴人方を訪れたが、控訴人が不在でその目的を遂げなかった。なお、岩元忍は同年六月頃不渡手形を出して倒産した。

三、以上の事実によると、柳田勉が二回目の不渡手形を出して倒産した昭和五九年一二月初め頃の時点で、約定により柳田勉は福井相互銀行に対し本件各手形の買戻債務を負担し、同人の連帯保証人が同銀行に対し右買戻債務の連帯保証債務を負担するに至ったのであるが、被控訴人は、債権者から右連帯保証債務の履行方法として、同銀行に対して本件各手形金を支払う代わりに、岩元忍の当座預金口座へ本件各手形の決済資金を振込入金するように指示されたため、これに従い右手形決済資金を右口座へ振込入金したものであって、右出捐は、実質は、柳田勉が同銀行に対して負担する本件各手形金の買戻債務につき、その連帯保証人としてなされた弁済と認めるのが相当である。

控訴人は、本件各手形は振出人によって決済されている旨主張するが、前認定のとおり、当時振出人には本件各手形を決済すべき残高なく、本件各手形は、被控訴人の資金によって決済されたことが明らかであるから右主張は理由がない。控訴人はまた被控訴人の資金提供によって消滅したのは振出人の手形上の債務であって、主債務者柳田勉の債務でない旨主張するが、被控訴人は、振出人に資金援助をする義務も実体関係もないから、右被控訴人の資金提供の目的は、柳田の割引手形買戻債務の消滅にあったとみるのが相当である。控訴人は更に、柳田の債務を消滅させるには、同銀行から本件各手形を買戻せば足る旨主張するが、主たる債務の免責方法としては、当時の状況としては、買戻しに限定されず、債権者指示にかかる実質的には買戻と同視すべき本件の如き方法によることも許されると解するのが相当であるから、右主張も採用できない。

よって、被控訴人は、自己の出捐により共同の免責を受けた結果として、他の連帯保証人である控訴人及び柳田美恵子に対しそれぞれの負担部分につき求償する権利を取得したものであるところ、前記のとおり柳田美恵子にはこれを償還する資力がなく、また、各自の負担部分につき当事者間に特段の定めのない本件においては、控訴人は被控訴人に対し、前記求償債務の履行として、被控訴人の出捐額の二分の一に相当する一一三万一五〇〇円、及びこれに対するその出捐日から完済まで民法所定年五分の割合による利息金を支払う義務がある(民法四六五条一項、四四二条一項二項、四四四条本文参照)。

四、以上の次第で、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上孝一 裁判官 紙浦健二 森髙重久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例